「女子だから~」「男子なら~」——こうした性別による決めつけや制限を、現在の高校生たちはどの程度経験しているのでしょうか。2015年に制定されたSDGsでうたわれているジェンダー平等は社会全体でも関心が高く、これから社会に出る高校生にとっては自身の将来にも影響する大きなテーマです。学校現場の実態を知るために全国の高校生100人にアンケートを実施しました。
学生生活等で性差による制限を経験した高校生は約4分の1
全国の高校生(15~18歳)100人を対象に「性差によって学生生活や学び、進路を狭められた経験はありましたか」と質問したところ、「はい」と回答した人が24%、「いいえ」が63%、「どちらともいえない」が13%という結果になりました。約4人に1人の高校生が、性別を理由とした制限を実際に経験していることになります。 制限を経験した高校生からは、以下のような声がありました。
(調査結果①)
身近な学校生活の中でも、様々な制限が存在していることがうかがえます。
逆に「男女が平等だと感じるシーンはありますか」という質問には、以下のような回答がありました。
(調査結果②)
1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定されて以降、男女を分けない「男女混合名簿」の導入が全国で広がり、現在では多くの学校で採用されています。また、呼び方を男女とも「さん」で統一するのも一般的になりました。さらに女子の制服をスカートかズボンか選べる学校も増えているなど、性別による一律の区分けから、より個人の選択を重視する動きも出てきました。アンケート結果からも、こうした学校現場での取り組みが一定の成果を上げていることが見えてきます。
また職業選択の面でも変化が見られます。以前は「看護婦」と呼ばれ、女性が大半を占めていた看護職も、現在は男性の看護師も珍しくなくなりました。エンジニアや警察官など、男性が多い職業でも女性の比率が高まっていて、かつてよりも性別にとらわれずに職業を選択できる環境が整いつつあります。
このように環境は変わりつつありますが、もちろん課題はあります。「どうしたら学生生活や学び、進路面でジェンダー平等が実現すると思いますか」という質問では、高校生から具体的なアイデアが寄せられました。
(調査結果③)
この結果について、流通経済大学でダイバーシティ推進に携わってきた三木ひろみ先生(スポーツ健康科学部教授)は、「大切なのは、制限を感じた人たちの気持ちに寄り添うことです」と話します。
「性差による制限」に気づかずに通り過ぎてしまうことも
「性差による制限を経験した高校生が24%という結果については、様々な捉え方があるでしょう。私は数字の大小以前に、ダイバーシティを推進してきた一人として、性差による制限を感じた高校生の皆さんに申し訳ない、という気持ちになりました。性別は自分で左右できることではないので、それが理由で可能性が狭められたと感じるのは、やはり辛いことだと思います」
三木先生も、社会心理学を専門とする女性研究者として、「女性であることが不利になったことがありますか?」という質問を何度か受けてきたそうです。
「私自身は『女性研究者として不利を感じたことは特にない』というのが実感です。しかし、これは性差による制限が存在しない、ということではありません。今回のアンケートでも『男女で募集人数を変えている』『選択できる高校が少なかった』という声があるように、制限は確実に存在しています」
では、なぜ約6割の高校生が「制限を感じたことはない」と答えたのでしょうか。三木先生は、以前に比べて平等が進んでいる面はある、としながらも、次のように語ります。
「制限に直面した時、『女性だから制限されている』と考える前に、『じゃあ他の方法はないか』と解決策を探す人もいます。それで結果的になんとかなってしまうと、性別による制限に気づかないまま過ぎてしまうケースもあると思います」
アンケートにも「女子校、男子校という枠で魅力を感じていた学校を受けることができなかった」という声がありましたが、 進学先を変更したり学校生活を自力で充実させることで満足できれば、それが性別制限によって強いられた選択だったことを意識しなくなる場合もあるでしょう。
この対応はポジティブな面もありますが、根本的な問題が見えにくくなるという課題があります。
「本当に性別が原因で制限されているのなら、それは解決すべき問題です。でも、当事者にはそれが分からないことがあります」と三木先生は指摘します。
明確な差別と無意識の偏見
入試に関して性別に関する制限が大きな問題になった事例があります。それは、2018年に明らかになった医学部の女子受験生一律減点問題です。複数の大学の医学部の入試で、女子受験生の点数を下げたり、男子受験生に加点するなどして、意図的に女子の合格者を減らしていたことが明らかになり、社会的な問題になりました。
「現在は『男女平等、機会均等』という価値観が浸透しています。だからこそ、差別的な制限は隠してやらざるを得なかったわけです。こうした隠された差別は残念ながらまだあるでしょうし、たとえ被害を実感する人が少なくても、それで放置して良いわけではありません」
また現在の性差による問題の多くは、性別に対する無意識の偏見「アンコンシャスバイアス」が関わっています。アンコンシャスバイアスの研究にも携わってきた三木先生は、このメカニズムを分かりやすく説明してくれました。
「人間はある人を見ると、相手が『男性』か『女性』かを瞬時に判断します。そして無意識のうちに『男性なら』『女性なら』という性別の特徴に当てはめてしまう。これは人間が効率的に情報を処理するために身につけた能力ですが、『相手が実際はどういう人なのか』とは関係なく自動的に働いてしまうため、無意識の偏見が生じてしまうのです」
アンコンシャスバイアスは止められない。でも対処できる
では、どうすればよいのでしょうか。三木先生の答えは明確でした。
「『アンコンシャスバイアスをなくしましょう』とよく言われますが、これは無理なんです。無意識の反応は止められません。でも、対処法はあります」
その方法とは、重要な判断をする時に意識的に立ち止まることです。
「無意識に『この人はこういう人だ』と判断してしまった後でも、『ちょっと待って、その判断で本当に大丈夫?』と自分に問い直すことです。すべての場面でやるのは難しいでしょうが、大切な判断の時には意識することが必要だと思います」
この習慣を身につけるには、学校現場での取り組みが重要です。そのために三木先生は2段階のアプローチを提案してくれました。
第1段階:価値観をはっきり示す
「まず学校や教師が『男女平等』『みんな同じクラスのメンバー』という価値観を明確に打ち出すことです。みんなで協力してクラスを良くしていこう、という方針を示すことが大切です」
これは、学校側が主体となって行う取り組みです。男女平等という価値観を明文化することで、もし差別的な対応があった時に「男女平等という価値観に合わない」と指摘できる下地を作ります。
第2段階:声を上げやすい環境作り
「嫌な思いをした人が『それはおかしいと思います』『嫌な気持ちになりました』と素直に言うことが必要ですが、そのためには『声を挙げてもいい』と思える環境が大切です。それは弱音ではなく、みんなで平等な環境を作るために必要な声なのです。その声を聞くには、普段から『一人が感じたことを伝えることは、みんなにとってもプラスになる』という価値観をみんなで共有する取り組みが必要でしょう」
SDGsからIDGsへ 一人ひとりができること
アンケートで「ジェンダー平等を謳うだけでなく、リアルな声を聞き、広めて受けとめ、話し合う」という提案があったように、大きな目標を実現するには個人レベルの行動も重要です。
それについて、三木先生は印象的なエピソードを紹介してくれました。私たちがよく目にするSDGsのロゴをデザインしたスウェーデン出身のクリエイティブディレクターであるヤーコブ・トロールベック氏が講演で語った話です。
「SDGsは世界中に広まったけれど、実際の目標達成はまだまだ進んでいない。なぜかというと、実際に行動を起こせるのは個人個人でしかないからです。国や政府が大きな力を使っても、一気に変えることはできないのだと、言っていました」
そしてトロールベック氏は現在、SDGsではなく「IDGs=Individual Development Goals(個人の開発目標)」を推進している、と語っていたそうです。
「大きな看板や目標は必要です。しかしそれを実現するのは一人ひとりの小さな行動の積み重ねです。今日自分は何ができるか、どう成長できるか、周りの人の助けになれるか——そういう個人レベルの取り組みでしか、本当の変化は起こせない、ということを改めて感じました」と三木先生は講演の内容を振り返ります。そのうえで、読者である高校生に次のようにアドバイスします。
「ジェンダーの平等についても、お互いが『みんなでより良い環境を作ろう』『一人ひとりが輝けるように応援し合おう』という気持ちを持つことが大前提です。そのうえで、『そのために今、自分たちの学校をどんな場所にしていきたいか』『一人ひとりに何ができるのか』について、改めて話し合ってみてもらいたいです」
多くの人がジェンダー平等を意識して、無意識の偏見と向き合い、声を上げ、支え合うことで、確実に変化は生まれていくはずです。そして、個人の意識改革と行動だけでなく、学校や社会が制度として環境を整えていくことも同時に必要です。この個人意識と制度の改善の両輪が揃ってこそ、性差による制限のない環境が実現していくのです。
記事監修

スポーツ健康科学部 教授
三木 ひろみ先生
流通経済大学スポーツ健康科学部教授。社会心理学、スポーツ心理学を専門とし、アンコンシャスバイアスの研究にも携わる。ダイバーシティ推進にも取り組んでいる。
調査方法:インターネット上でのアンケート調査を行い集計
調査対象:SDGsもしくはジェンダーに関心があると回答した高校生(15歳~18歳)
サンプル数:男女100人(男性50人/女性50人)
調査期間:2025年8月6日〜2025年8月13日



