2022年に発表された「ジェンダーギャップ指数」では、日本は146カ国中116位という結果で主要7カ国(G7)の中で断トツの最下位。東アジアを見ると、中国は102位、韓国は99位で、日本は特に政治や経済の分野で男女の格差が大きい国として認識されています。
こうした現状を、どうしていけばよいのでしょうか。日本の高校生たちに、ジェンダー平等についての意識を聞いてみました。
ジェンダー不平等を感じたことがある高校生が7割以上
全国の高校生(15~18歳)100人を対象に行ったアンケートでは、「不平等を感じたことがある」と回答した人が31%、「やや感じたことがある」と答えた人が43%と、不平等を感じたことがあるという人が7割を超える結果となりました。
では、実際に高校生たちは、どういうシーンで不平等を感じているのでしょうか。以下のような回答があがりました。
<ジェンダーの不平等を感じたシーンを具体的にお答えください。>
女性の生涯所得が男性よりも低い(女性)
女性が行っているイメージが強いものを男性がやっていると〇〇男子(メイク男子、イクメンなど)と呼ばれるし、その逆も存在する(女性)
学校の上の立場の人たちが男の先生ばかり(女性)
両親ともに働いているが、父は家事を全くしない(男性)
男子だからと、教材を職員室から教室まで運ぶよう言われた(男性)
女性専用車両はあるが、男性専用車両はないこと。また女性はか弱き存在で男性という強い存在が守らないといけないという決めつけを感じる(男性)
男女の賃金格差や、家庭内や学校現場での様子など、身近な場所にたくさんのジェンダー不平等が潜んでいることがうかがえます。まだまだ改善すべき課題がたくさんあると感じる結果となりましたが、この結果について、教育学を専門とする流通経済大学スポーツ健康科学部教授の鈴木麻里子先生は、「まずは気づくことがジェンダー平等を叶えるための第一歩」と話します。
「そもそもジェンダー問題は、“アンコンシャスバイアス(unconscious bias)”に基づいています。アンコンシャスバイアスとは、人々が無意識のうちに抱いている偏見や思い込みのことです。ジェンダー問題は、昔ながらの男女の役割に根差しているため、そもそもそれが男女差別だと気づいていない人が多いのです。
どうして、女性のほうが所得が低いのか。なぜ、お父さんは家事をしないのか。そこに問題があることを認識し、『おかしいな』と気づくことがジェンダー平等を実現するための一歩だと思うのです。ですから、7割以上もの高校生が『不平等を感じたことがある』と回答し、その不平等について言語化できているのはジェンダー平等を実現するために前進していると捉えてもいいのではないでしょうか」(鈴木先生)
不平等を感じたことがないという高校生の回答は?
一方で、26%の学生が「不平等を感じたことがない」「不平等をあまり感じたことがない」と回答。ジェンダーの平等を感じたシーンを聞くと、以下のような回答があがりました。
<ジェンダーの平等を感じたシーンを具体的にお答えください。>
性別にかかわらず水着が統一されたこと(回答なし)
学校でのフォーマルな相手の呼び方が、男子は「~くん」女子は「~さん」ではなく、男女共通で「~さん」なこと(女性)
出席番号が男女混合になった(男性)
昔は女子は家庭科、男子は技術だったものが、統一されたこと(女性)
制服の選択の幅が広がったこと(男性)
この結果について鈴木先生は「学校現場で “隠れたカリキュラム”を変えようとした結果が反映されているのでは」と分析。隠れたカリキュラムとは、学校指導要領には載っていない独自の校則やルールなどのことで、『男はこうだ、女はこうすべき』といったジェンダーバイアスを子どもたちに植え付ける一因になっていたと考えられています。
「例えば、名簿表。これまでは、男子が先で女子が後という順番になっている学校が多くありましたが、今では男女混合の名簿が当たり前になりました。それから、教科書にも隠れたカリキュラムは多くありました。顕著な例が、家庭科です。これまでは家庭科の教科書に描かれたイラストのほとんどが女性でしたが、男性のイラストも描かれるようになりました。中には、性別がどちらかはっきりわからないようなイラストが描かれていることもあります」(鈴木先生)
ジェンダー平等の実現に近づくためには?
学校現場でもさまざまな取り組みが行われていますが、さらにどんなことができそうか高校生に聞いたところ、社会のシステムや設備面など、男女共同の社会づくりへの具体的なアイデアがあがりました。
<どうしたらジェンダー平等という目標に近づくと思いますか?>
性別にかかわらず、育児休暇をとりやすくしたり、家事に関わる知識を獲得できる機会を設けたりする(女性)
男女共用の制服をつくる。男の人も積極的に家事に関わるようにする。体育は性別ではなく実力で分ける(回答なし)
男子トイレにも、オムツ替え台を設置する(女性)
小さい頃からジェンダー問題について教育する機会を設ける(男性)
「ジェンダー平等は一足飛びに変化するのではなく、実現されるまでにはいくつかのステップがあります。今、まさにその過渡期なのです。高校生のアイデアを聞き、社会でも学校現場でも取り組めることがまだまだたくさんあると気づかされますね」(鈴木先生)
これから私たちにできることは?
世界的にもジェンダー平等の達成が遅れている日本。実現するためには、私たちの中にまだまだ潜むアンコンシャスバイアスに気づくことがポイントだと鈴木先生は言います。
「視野を広く持つことが重要です。現在、情報を得る手段のほとんどがスマートフォンで、自分の興味のあることしか目に入ってこない環境になっているかと思います。そこでおすすめなのが、新聞や本を読むこと。興味がない分野でも、いろんな情報が目に入ってくることが大切なのです。図書館では、自分が読みたい本の上下や両隣の本も手に取ってみてください。そこに自分の知らなかった世界があり、視野を広げるきっかけをくれるのです」(鈴木先生)
興味があることの一つ隣まで関心を高めることで、アンコンシャスバイアスに気づきやすくなるクセが身につく。こういった意識を持つことが私たちにできるジェンダー平等実現のための第一歩かもしれません。
ジェンダー平等が実現された社会ってどんな社会?
「どうしたらジェンダー平等という目標に近づくか」という質問に、こんな答えもありました。
性別関係なく一人の人間として考えれば、差別発言などは自ずとなくなると思う(女性)
個人差というものがあるのだから、性別ごとに分けるのではなく、個人で性格が違うことを当たり前の考え方にする(男性)
お互いができることをして、助け合いながら生きる(男性)
性別ではなく、一人の人間としてフォーカスすることが大切だという回答です。
「一人ひとりがありのままでいられる社会。自分の考えを相手に押し付けず、相手を認められる社会。ジェンダー平等の実現は、誰もが自分らしく生きられる社会の実現と深くつながっているのです」(鈴木先生)
よりよい社会を実現するためにはジェンダー平等の実現が欠かせません。日本はこの10年間、ジェンダーギャップ指数で世界の100位以内に入ったことすらなく低迷が続いています。果たして2030年に、日本のジェンダーギャップ指数はトップ100位以内に入っているでしょうか。みなさんの意見を下記のボタン(Yes/No)から選んで投票してみてください。
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関連用語:ジェンダーギャップ指数(2022)
記事監修
スポーツ健康科学部 教授
鈴木 麻里子先生
すずき まりこ | 福島県出身。京都女子大学大学院文学研究科教育学博士後期課程単位取得満期退学。専門は「教育学」。
調査方法:インターネット上でのアンケート調査を行い集計。
調査対象:SDGsもしくはジェンダーに関心があると回答した高校生(15歳~18歳)
サンプル数:男女100人(男性40人/女性40人/回答しない20人)
調査期間:2023/1/24〜2023/2/3