「誰一人取り残さない」ではなく「誰一人取り残されない」がしっくりくる

NPO法人あなたのいばしょ理事長

大空幸星さん

おおぞら こうき|1998年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中の2020年3月、「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に「あなたのいばしょ」を設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動している。内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員、内閣官房孤独・孤立対策担当室HP企画委員会委員などを務める。著書に『望まない孤独』『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由:あなたのいばしょは必ずあるから』。

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コロナ禍で人と会いづらい状況が生まれ、より深刻になった問題の一つに「孤独」があります。今回は、この孤独の問題に向き合うNPO法人「あなたのいばしょ」を立ち上げた大空幸星さんにインタビュー。SDGsへの考え方や、孤独の背景にあるものを語っていただきました。

SDGsは「取り残されている」側の目線で考えるべき

Q.大空さんはSDGsをどのようにとらえていますか?

SDGsの理念は、英語では「no one will be left behind」で、日本語では「誰一人取り残さない」と訳されています。ただ、僕は「取り残さない」ではなく、誰一人「取り残されない」という方がしっくりくると感じています。全ての人が自分らしく豊かに生きられるような社会を実現するのがSDGsであるならば、本当に助けが必要な、取り残されている側の目線に立った言葉であるべきだと思うからです。

SDGsを通して社会問題に関心を持つのはいいことだと思います。困ったりしている人たちに対して、自分たちの資源や力をどう活かすのかを考える社会は、好ましい方向に進んでいると言えるでしょう。

一方で、社会の持続可能性や多様性を大切にするとうたっておきながら、例えば政府要人の性的少数者への差別的な発言に対して、声明を出して意見を表明するような日本の大企業はまだ少ないですよね。企業がSDGsを掲げてイメージアップにつなげるのはいいと思いますし、何もやらないよりは、やったほうが断然いいです。でも、現実と社会の理想像の間には、まだまだギャップがあるのではないでしょうか。

Q.興味を持っているSDGsのゴールは何番ですか?

僕は「あなたのいばしょ」という望まない孤独」をなくすためのNPO法人の代表をしています。メンタルヘルスの分野になるので、3番「すべての人に健康と福祉を」が近いのかなと思いますが、僕たちのように、命のセーフティーネットになるような活動をしているNPO法人の人たちは、あまりSDGsという言葉を使っていない印象です。

SDGsを支援の現場で手足となって動き実現するのは、NPO法人である場合が多いのですが、ここには資金が集まらず、人も関心も集まりにくい。この現状を改善するためには企業だけでなく、例えば大学などの教育機関などがファンドを設立し、資金や人を現場に送るような仕組みをもっとつくっていく必要があるのではと考えています。

「死にたい」と言う人の背景にある「望まない孤独」

Q.「あなたのいばしょ」ではどのような活動をしていますか?

僕たちは、相談窓口としてチャット相談を設けています。「死にたい」と言うような方からの相談がほとんどで、相談してくる人は10歳に満たない子どもから90代の高齢者までいます。平均年齢は26歳で、8割が女性です。

死にたいという状況から相談が始まり、それを傾聴しながら受け止めて、共感して、肯定して、承認する。これらを通じて、死にたいという気持ちを少しでもなくしていっていただくのが僕らの役割です。

チャットで、今の気持ちを書き込んで読み返してもらうことで、自分の悩みや問題というのを客観視することができるようになると思っています。それによって初めて自分が悩んでいることに気づいて、それで苦しい気持ちがある程度軽減されるっていう人たちもたくさんいます。

「あなたのいばしょ」のチャット相談窓口。

Q.問題の背景には何があるのでしょう。

「望まない孤独」があります。英語では「loneliness」のことを指すのですが、頼りたくても頼れないとか、話したくても話せないというような状況のことを表しています。

「社会的孤立」という言葉もありますが、これは客観的に見て家族やコミュニティとの接触がほとんどないことを意味しており、孤立していても孤独を感じない人もいます。対して「孤独」は主観的概念で、家族やコミュニティに接触していても本音が言えないなど、本人が孤独感を感じていれば「孤独」であると考えています。

孤独の感情は、例えばタバコを1日15本吸うのと同じぐらいの健康リスクがあるという研究があったり、うつ病の発症リスクもあったりと、精神的にも肉体的にもリスクがあると言われています。

何かしらの悩みや問題は、人間が生きていたら誰しも感じるものです。ただ、そこに大きな出来事、例えば大切な人との死別やいじめ、DVなどが連鎖的に重なってしまった時に、誰にも話せない、誰にも頼れないという状況に置かれると、孤独の感情が急激に深まり、自殺に追い込まれていく人たちが出てきてしまうのです。

Q.望まない孤独は減らせるのでしょうか。

人生において、大きな出来事や変化と遭遇しないように生き続けることはできませんし、悩みを消し去ることもできません。つまり、原因を絶つことができないのが孤独の特徴です。しんどい、悲しい、つらい、むかつく。そうしたいろんな感情が渦巻いた時に、誰かにつながってその気持ちを吐き出せるようにして、望まない孤独が深刻化しない状況をつくり出さなければいけないと考えています。

「社会的な関係を満たしたい」「人とつながりたい」というのは非常に人間的な欲求です。それを満たせるような社会にしていけたらと思っています。

無理にやりたいことを見つける必要はない

Q.高校生にアドバイスやメッセージをいただけますでしょうか。

悩みや苦しいこと、しんどいことがある段階で誰かに相談をしてほしいですし、学校はそういう環境をつくってあげてほしいなと思います。

それにプラスして、無理にやりたいことを見つける必要はないと言いたいです。例えば、小学校の卒業式とか卒業文集とかで自分の夢を書かされることがあります。すると、夢を追っている人や目標に向かって歩いてる人こそが正義のように映ることがある。

多くの子どもたちや学生さんにその正義を求めたり、押し付けたりする現状は変だなと思っているんです。無理に設定した大きな夢や高すぎる目標が叶わず、そのギャップに苦しんでいる人も多いし、孤独が深まる原因になっていることもあるからです。

SDGsについても同じだと思います。みんながみんな、世界の諸問題を解決する側にならないといけない、と思い込む必要はないでしょう。それよりも、悲しみや苦しみを抱えているクラスメートに寄り添い、その人の話を聞き、気持ちを考えてみる。そこから気づけることもたくさんあるはずです。

もちろん夢や目標があって、それに向かって努力をしている人は素晴らしいと思います。けれども、それがスタンダードだと思い込まなくてもいいよ、って伝えたいですね。

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