「エコはかっこいい」 10代ならではの感性を発信してほしい

株式会社ローソン代表取締役社長

竹増貞信さん

たけます さだのぶ|1969年生まれ。大阪大学経済学部を卒業後、三菱商事株式会社に入社し、畜産部の配属となる。2002年より米国インディアナ州に駐在し、帰国後、広報部、社長業務秘書などを経て、2014年株式会社ローソンの副社長、17年同社代表取締役社長に就任。2021年にはCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー/最高サステナビリティ責任者)を兼務。高校時代は、ラグビー部に所属。趣味は釣り。

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今や日本国内の多くの企業に広まった、SDGsの理念。私たちの消費生活に欠かせないコンビニエンスストアも、その例外ではありません。2022年、食品ロスの削減や環境負荷の軽減など、20以上の“サステナブルな施策”を導入した近未来型店舗「グリーンローソン」をオープンするなど、積極的なSDGs対策を打ち出す株式会社ローソンの竹増貞信社長に、同社が実践する環境問題への取り組みや若い世代への思いを伺いました。

食品ロス削減を目的に開発した「もったいないおせち」

Q.ローソンが行っているSDGsの取り組みについて教えてください。

当社では2019年に「SDGs委員会」を立ち上げ、企業全体でSDGsの課題解決に向けた活動を行っています。

ローソンの店舗が力を入れている取り組みの一つが、販売期限切れで廃棄されるお弁当やおにぎりといった「食品ロス」の削減です。現在は全国の約9割の店舗で適宜商品の値引きを実施し、商品の売り切りを目指しています。

また、商品を棚の最前面まで並べる「前進立体陳列」と呼ばれる陳列方法も、食品ロス対策の一つです。お客様が陳列棚を見た時に、商品がピシッと正面を向いて並んでいれば、自然に手前から手が伸びますよね。購入後すぐに食べる商品については、棚の手前にある販売期限の近いものから取っていただく「てまえどり」を推進することで、廃棄食品を減らすことができるのです。

Q.一部店舗で導入している洗剤や食品の量り売りは、プラスティックゴミの削減につながり、利用客からも好評と聞きました。ほかにもSDGsを意識した独自の取り組みがあれば、教えてください。

現在一部の店舗で量り売りを行っており、プラスチック容器での販売と比較し、およそ79%のプラスチック使用量削減につながっている。

2022年から販売している「もったいないおせち」は、フードロス対策を目的として開発した商品です。おせちはおめでたい日に食べる料理なので、味だけでなく見た目も大切ですが、色、形の揃った食材だけを使っておせちを作ると、かまぼこの両端や折れたかずのこなどは、味や品質に問題がなくても廃棄することになります。

おせち製造メーカーの規格外食材や端材を使用することで、年々使用可能な食材数が増えている「もったいないおせち」。

しかし、それは“もったいない”ということで、通常のおせちとは別に、規格外食材や端材を使った「もったいないおせち」を作ったところ、非常に好評で、2023年の節分には、形の悪いエビやウナギなどを使った「もったいない恵方巻」も発売しました。こういった商品を購入してくださるのは、若い世代も多いです。従来の常識にとらわれず、自分がいいと感じたものを取り入れる姿勢は、大人も見習うべきです。

「なぜバナナを包装するの?」の一言が気づきに

Q.若者のSDGsへの関わり方について、どのように感じていますか?

環境への配慮ができること、エコであることを「かっこいい」「クール」と受け止められるのは、ティーンエイジャーならではでしょう。こういった感覚は、ぜひ積極的に世の中に発信してもらいたいですね。

SDGsに関しては、私も若い人たちから学ぶことが多くあります。何年か前に、イギリスから来た10代の女性と話をする機会があったのですが、彼女から「なぜコンビニでは、バナナをビニール袋に入れて売っているのか」と尋ねられました。食べるときは皮をむくのにビニール袋で個包装をするなんて、ゴミを増やしているだけではないかと言うんです。彼女の一言で、私たちが良かれと思って提供しているサービスも、ときに環境への負荷になっているのだと気づきました。

この経験がきっかけとなり現在進めているのが、店舗の冷蔵ケースや冷凍食品ケースにガラス扉を設置する取り組みです。扉で冷気が逃げるのを防げば、店舗の電気使用量、CO2排出量は削減できます。これまでは商品の取りやすさを最優先し、扉は付けない状態にしてきましたが、考えてみればご家庭の冷蔵庫は扉付きが当たり前。環境への影響を考えれば、扉を付けないことも過剰なサービスにあたるのではないかと考えたわけです。

Q.今の世界は地球温暖化など多くの課題を抱えています。若い世代がSDGsという目標に向けて動くことで、未来は変わるとお考えでしょうか?

新聞やニュースなどを見て不安を感じる人もいるかもしれませんが、未来は現在の世界の延長ではなく、これから自由に作っていくものです。

16歳(当時)のグレタ・トゥーンベリさんが国連本部で行ったスピーチをきっかけに、多くの人が環境問題に興味を持ったように、10代の若者は大人も巻き込んで世の中を変えるパワーを持っています。子どもたちが環境に対して高い意識を持っていると分かれば、親世代も知らない、できないではすまされません。そういった積み重ねで、未来は変わっていきます。若い人たちには大人になることを悲観せず、自分の感性に自信を持って進んでもらいたいですし、私たち大人はそういう若者を応援し、サポートする存在でありたいです。

中学生・高校生を対象に、身近なローソンでの取り組み事例を通じてSDGsについて楽しく学んでもらうために「ローソンSDGs教室」を東京のローソン本社で開催している。

外の世界を知り、偏見のない心を育む

Q.高校生にメッセージをお願いします。

若いうちにいろいろな世界を見ておくことは、とても有意義だと思います。生まれ育った地域でも学校でも、同じ場所でずっと過ごしていると、そこでの常識が世間一般の常識のように思えたり、物事を偏った目で見るアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)につながったりするものです。

私は大学生のときに1年間アメリカに留学しました。生まれ育った町では外国の方を見かけることは多くなく、初めは同級生とも恐る恐る接していたのですが、あるとき、私の言った冗談に同級生が大笑いしてくれたんです。大阪人ですから、笑いを取れたことが嬉しかったですし、笑いのツボは世界共通なのだと分かったことで、心の中にあった垣根も取れた気がしました。国籍は違っても、人間はみな同じ。喜んだり、傷ついたり、誰かを好きになったりする感情は、誰もが持っている。私は日本の外に出て、改めてそのことに気づいたのです。

高校生であっても、他校の友だちとの交流やアルバイト、地域のボランティアなど、外の世界を知る方法はたくさんあります。さまざまな体験を通して得た偏見のない視点を、これから先の人生のさまざまな局面でいかしてほしいと思います。

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