製品やサービスを通してSDGsの目標達成に貢献できる人間工学。流通経済大学流通情報学部の関宏幸先生にお話を聞きました。
障がいのあるなしに関係ない仕組みを
人間工学の研究対象は機械ではなく、人間そのもの。障がいのあるなしにかかわらず、誰でも安全で快適に、効率よく働いたり、生活したりできる方法を追求する学問です。誰一人取り残さない社会を目指すSDGsに直結していると思います。
具体的にはSDGsの目標8の「働きがいも経済成長も」や、目標10の「人や国の不平等をなくそう」に対してアプローチできるでしょう。
また、目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも関わってくるのが、現在学生たちと研究している「XR」技術。ゴーグルなどのガジェットを装着することで、現実世界と仮想世界を融合し、現実にはないものを知覚できるこの技術を社会とどうリンクさせていくかを考えています。
例えば、大学のオープンキャンパスなども、VR(※1)やAR(※2)で配信することができれば、新型コロナウイルス感染症のような事態が起きても、実際に大学に来ているような体験ができるかもしれません。また、新松戸キャンパスと龍ケ崎キャンパスの学生が、同時に同じゼミを受けることも可能になります。XR技術はさまざまな障壁や障がいを乗り越えられる魅力的な技術なのです。
※1 Virtual Reality(仮想現実)の略。コンピューターによって創り出された仮想的な空間を現実のように疑似体験できる技術。
※2 Augmented Reality(拡張現実)の略。現実の風景に対し、コンピューターで映像などの情報を加えたり合成したりして表示する技術。
相手を思いやり理解することがSDGs
20年以上前、私のゼミに全盲の学生が入ってきました。当初、この学生は大学の近くに暮らし、教職員が送り迎えをしていたのですが、早々に一人で学校に行くことを覚え、やがて駅の近くのアパートに引っ越し、バスに乗って一人で大学に通うようになりました。さらに、近所の居酒屋を行きつけにするなど、卒業まで学生生活を満喫していました。
私たちは、学校にも近く、送迎のある暮らしが快適な生活だと思っていたのですが、この学生にとってはそうではなかった。この経験は研究のヒントになりましたし、SDGsにつながる学びとして今も意識しています。
人間工学の出発点は、暮らす人やサービス利用者といった対象者に意識を傾け、相手を受け入れ、理解することから始まります。サービスや製品を
単に開発するのではなく、それを体験する人がどのように感じ、何を思うのか。そこまで想像をめぐらせ、責任を持つこと。誰もがこのことを意識すれば、SDGsの目標に近づいていくのではないでしょうか。