多様な価値観や、人々の多様性は歴史から学べる?スポーツ健康科学部教授で図書館長の酒入陽子先生にお話を聞きました。
歴史の中で移り変わる常識と非常識
史料を手掛かりに、過去に起こった出来事などを研究するのが歴史学です。歴史をひも解くと、人々が大切にしていることや、社会で正しいとされる価値観は、時代とともに大きく変わってきたことに気づかされます。
例えば、江戸時代は身分制度が厳しく定められたため、武士と農民の間にかなりの格差があったと習いませんでしたか?
しかし、実は江戸時代初期には、武士と農民の身分が明確にわかれていたわけではなく、一家の中で弟は大名に仕えて武士となり、兄は家を守って村で百姓となる例もあって、身分間の交流や移動も多かったのです。
また、「わびさび」という言葉があります。質素さや静けさの中に美を見出す、日本文化を代表する精神として認識されているのではないでしょうか。その一方で、江戸時代の日本人には派手好きな面もあったんですよ。三代徳川将軍家光によって改築された、栃木県の日光東照宮がわかりやすい例で、金を基調として、華やかでキラキラとした装飾が特徴的な建物です。「わびさび」とは、ほど遠いですよね。
異なる存在への気づきが、平和や平等をもたらす
このように、現代の日本に暮らす私たちの常識も、数十年後は非常識になっているかもしれない。例えば数十年前は、男性は外で働き、女性は家庭を守るべきだと考える人のほうが多数派でしたが、今は逆転しています。この間、社会にどのような変化があったのでしょう。それを知ることは、男性や女性が「こうあるべき」という固定概念を見直すヒントとなり、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の達成につながると思いませんか?
現在の常識を疑うことは、自分とは異なる存在への気づきを促します。そして、異なる価値観を尊重したり、苦境に立たされた人々を思いやったりする姿勢が、紛争や不平等、貧困などのさまざまな問題を解決する一助になるのではないでしょうか。これは、目標10「人や国の不平等をなくそう」や、目標16「平和と公正をすべての人に」などに関連します。
歴史学は過去を対象にした学問でありながら、今の社会を問い直すこともできます。その学びはきっと、みなさんの今後の人生において大きな実りをもたらしてくれるでしょう。