SDGsのための取り組みと聞くと、節電や節水、プラごみ削減などを想像する人が多いかもしれません。もちろんこれらはとても大切なこと。でも、もっと深く、別の角度からもSDGsに関わるためには、どうすればよいのでしょう? 地球環境や人権などに配慮した「エシカル」な消費や生産、行動を広める活動をしている末吉里花さんに、身近にできる、ちょっと意外なアクションを教えてもらいました。
これもSDGs①「銀行を選ぶ」――預けるお金の行方は?
こんなこともSDGs、という具体例をいくつか挙げてみましょう。まず将来に向けてぜひ知っておいてほしい例が、「銀行を選ぶ」です。
私たちが預けるお金を、銀行は企業に融資します。もし融資先の企業が気候変動や人権侵害などに加担するような事業を行っていれば、私たちのお金がそれを支えることになります。だから、どんな企業へ融資しているのかを、預けるお金の行方を見て、銀行を選ぶ。高校生だと考えたこともないでしょうし、大人でもほとんどが同様ですが、SDGsにも大きく関わることです。
たとえば、国際環境NGO「350.org」では化石燃料に関連する事業に融資をしていない銀行を「COOL BANK」として公表しているので、そうした調査結果を参考にするのも一つです。
あとは、少し勇気がいりますが、銀行の窓口で聞いてみるのもありだと思います。質問することで銀行に直接声を届けることになり、利用者がそんな意識を持っていることが伝わるだけでもインパクトがあります。
多くの企業は融資をしてもらえないと経営が難しくなるので、銀行の融資先企業に関心を持つことには大きな意義があります。
これもSDGs②「検索エンジンを選ぶ」――当たり前を疑ってみる
毎日のように使っている検索エンジン。それを選ぶことで、社会に貢献できることを知っていますか? 例えばドイツの企業が運営する検索エンジン「ECOSIA(エコシア/エコジア)」は、広告収入の約8割を、植樹活動を行う非営利団体に寄付しています。約45回の検索ごとに木が1本植えられる仕組みで、2020年の時点で約9千万本の木が植えられているそうです。
それから、自分の使うスマホがどうやってつくられているか、気にしたことはありますか? オランダ発の「Fairphone(フェアフォン)」は、児童労働なしで採掘した鉱物を使ってつくられ、ユーザーの手で簡単に解体、修理ができる持続可能性の高いスマホです。世界を見渡せばそういったスマホも登場しています。
ふだん何気なく使っているものに、社会の課題が潜んでいるかもしれず、当たり前を疑ってみることが問題の解決への一歩になり得えます。当たり前に着ている服、食べているご飯、使っている電気。学校の中のいろいろな当たり前を疑ってみるのもいいと思います。
卒業証書の紙の背景を調べた、という高校生たちの話を聞いたことがあります。ただ、背景まではわからず、学校に直談判し、日本で紙としては唯一フェアトレードの認証を受けているバナナペーパーに切り替えたそうです。こうしたムーブメントが今、全国の高校生の間で起きています。
何気なく使っているものにも、社会の課題を解決するヒントは隠されています。
これもSDGs③「声を届ける」――権利を活かして企業を動かす
先ほど触れた「声を届ける」はあらゆることに通じ、SDGsにつながるアクションです。よく行くスーパーにフェアトレードやオーガニックの認証ラベルがついているものが見当たらない。そんな時には、お店に尋ねる、または「お客様の声」を聞く用紙に書いて投函する。その際に、なぜそれがほしいかを添えるとベターです。
実はこれ、すごい力を持っていて、「成功事例」を多々耳にしています。ある人は、劣悪な環境での生産ではない、平飼い放牧鶏の卵がほしいと書いたところ、翌月に置いてもらえるようになったそうです。 私たちの声が企業の後押しにも、社会を動かす力にもなるのです。
私たちは消費者として、生活者として、どういうものがほしいかを訴える権利を持っています。その権利を活かす。これはお金がなくても、誰でもできることです。
一人ひとりの声は、やがて社会を大きく動かす力になります。
「そもそもなぜ」を考える、包括的視点も大切
これらはほんの一例で、多岐にわたるSDGsにはあらゆる事柄がつながっています。SDGsは目標ですが、裏を返せばこの世界はそれだけ問題を抱えているということ。そもそもなぜこういう問題が起きているのかにフォーカスして考えると、こんなこともSDGsにつながっているということがわかると思います。問題の背景を知ることでこそ解決の道筋が見えるからです。
単にアクションで終わらせず、問題が生まれた背景に目を向け、どうしたらそれが解決できるのかを考える。社会のシステムチェンジに働きかけるような思考を身につけることが大切です。 また、17のゴールは関係し合っているので、一つのために行うアクションが別のところに新しい問題を生んだり、他の問題を助長したりといったことも起き得ます。これを「issue linkage(イシュー・リンケージ)」と言います。課題解決のためには、ホリスティック(holistic=総体的)に、包括的なまなざしで捉えていくことが重要で、エシカルとは環境、社会、経済のそれぞれの側面をホリスティックに見ることではないかと思います。
海岸のゴミを拾うことは大事。でも、なぜそのゴミがそこにあるのか、というところまで考えてみましょう。
「行動する」ことで社会を変える力になれる
高校生と話す機会も多いのですが、その中で、SDGsのことは知っていても、どうしたらいいのかがわからずモヤモヤしている人が多いと感じます。私もかつて先が見えないことに悩み、活動をやめようと思ったことがありました。その時、アウトドア用品のメーカー「パタゴニア」の創業者であるイヴォン・シュイナードさんからいただいたのがこの言葉。
「もしあなたが活動をやめたら、あなたは問題の一部になる。でも、頑張って活動を続けていけば、あなたは問題の解決の一部になれる。人の価値は何を思うかや言うかではなく、何をするかで決まる」
つまり、行動あるのみということです。私はこの言葉に支えられ、仲間に支えられ、活動を継続していますし、行動することでしか社会を変える力にはなれません。一歩踏み出して行動すると、仲間が集まるかもしれない。大人が声を掛けてくれるかもしれない。学校が動き始めるかもしれない。道が開けて何かが変わります。これってワクワクしませんか? 同じようなモヤモヤを抱えている人が必ずいるはずなので、ぜひ、仲間をつくって楽しく行動しましょう。
社会をよい方向に変えること。これはワクワクする、とても楽しいことですよ。
エシカルな心でサステナビリティの向上を
行動するときに心の在り方も大切です。私は、エシカルを広める活動をしていますが、エシカルな心でSDGsを達成することで、サステナビリティの向上が実現できるとよく説明しています。
エシカルとは直訳すると「倫理的な」という意味。一般的には「多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」であると言えます。ただ、「エシカル消費」というように近年使われているエシカルは、一般的な定義から発展し、「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」を指しています。「エいきょうを シっかりと カんがえル」。自分の影響を考え、想像力を働かせることがエシカルです。
最後に、SDGsには世界的な視野が必要です。国内のことだけだと視野が狭くなるので、できるだけ世界とつながりましょう。状況が許すようになったら実際に海外を訪れ、世界を知る機会を自分でどんどんつくり、視野を広げていってほしいと思います。
常識や価値観の違う人たちとの交流は、日本の課題に気づくきっかけにもなるはずです。