「このカエルに舌をつけたいな」「そっか、じゃあ舌は何色がいいかな?」
「カエルさんの外側だけじゃなくて中も色を塗りたいの」「うん。やってみようか。どうやったら塗れるかな?」
子どもたちと微笑ましいやり取りをするのは、流通経済大学で幼児教育・保育を学ぶ学生たち。同じ部屋には親や地域の方々も集まり、子どもたちを見守っている。これは流通経済大学が開設している「RKUプレイセンター」の様子だ。
プレイセンターとは、児童福祉・幼児教育の先進国・ニュージーランドで生まれた「親と地域が一体となり、子どもの自主的な遊びを尊重しながら運営する子育て支援活動」のこと。日本ではまだあまり知られていないが、子どもと親の成長、そして地域の活性化に大きな可能性を秘めている。SDGsの面からも注目される、子育ての新しい取り組みを紹介しよう。
「地域の子育て」の力を現代によみがえらせる活動
核家族化や共働きの増加、地域社会の変化により、子育てをする親の孤立が問題になっている。「密室育児」となり、子育ての悩みを相談したり共有したりする場がない、と悩む親も少なくない。自治体や民間団体の子育て支援はあるものの、多くは親子を“お客さん”としてサービスを行なう形で、親子の主体性を尊重し、成長を支える取り組みはほとんど行われてこなかった。
そうした状況に変化をもたらす取り組みの一つが「プレイセンター」だ。流通経済大学大学院社会学研究科の教授で、NPO法人日本プレイセンター協会の理事長も務める佐藤純子先生は語る。
「プレイセンターには、『子どもが自由に選んで遊ぶ』『親がみんなで協同運営する』『親もともに学び合う』という三つの原則があります。子どもの主体的な遊びを大切にすることで、その子が自ら学んで成長する力を育むことができます。また、親同士が協力して運営することで、他の親たちの子育てを参考にできますし、閉じてしまいがちな親子関係を解きほぐすことにもつながります。そして、親同士がともに学び合うことで、親も子も一緒に成長していくことができます」。それは、かつての日本にもあった、“地域による子育て”を現代社会の中で実践する活動とも言える。その実現には、親の力はもちろん、地域による協力と支援が欠かせない。
そこで、「“誰一人取り残さない”キャンパスと地域づくり」を目指す流通経済大学は、ダイバーシティ共創センターを中心にプレイセンターの支援活動を行なっている。その拠点となるのが、千葉県松戸市の常盤平団地内にある「RKU常盤平団地コモンズステーション」だ。この流経大の地域活動拠点では、学生と住民の方々が連携をし、さまざまな取り組みを行なうことで、団地を含む地域全体の活性化を図ろうとしている。RKUプレイセンターもその一つだ。


地域による子育ては若い保育の担い手も育てる
学生たちは、七夕やハロウィン、クリスマスといった季節のイベントを企画。地域の方々とも協力しながら運営し、子どもの自主的な遊びを通した学びの場を提供している。プレイセンターに参加する親たちに対しては、佐藤先生をはじめとしたスーパーバイザーが、子育ての学習会などを企画し、親同士の学び合いの機会を提供。親たちの運営を側面からサポートすることで、「Families growing together.(家族が一緒に成長する)」というプレイセンターの理念の実現を目指している。
「あれをしなさい、これはだめ、という子育てではなく、子どもが自分で考えることの大切さを学びました」「自分の子ども、他の子ども、それぞれの良さを認める気持ちが湧いてきました」「自分らしさを大事にしながら、親として一歩一歩成長していけばいいと思えました」――。参加している親たちの声からは、子育てに前向きになった様子がうかがえる。
「子育ての悩みや楽しさを自然な形で分かち合うことで、親同士が成長し合うきっかけがつくれたらいい。子育て中の家族がつながり、協力しながらプレイセンターを運営していくことが、地域コミュニティの発展にも良い影響をもたらすと考えています」と佐藤先生は話す。実際、親たちの輪に地域の高齢者の方々も参加して、子育ての悩みを聞いたり、自身の経験を話したりする様子が見られた。プレイセンターでは、さまざまな年代の人たちが協力する子育てが自然な形で実践されている。

また、プレイセンターの活動は、学生にとっても成長の場となっている。流通経済大学の共創社会学部・地域人間科学科では、保育やソーシャルワークを学ぶことができ、この分野に関心のある学生も多い。参加した学生からは、「子どもたちと触れ合えて、保育の楽しさがわかった」「親御さんや地域の方から子育ての大変さや楽しさを聞くことができて、幼児教育への理解が深まった」といった声が聞かれた。卒業後に保育の仕事に就く学生も多いため、プレイセンターは、実際の子育てを体験し、ふだんの学びを深める貴重な機会になっている。

国内で活動するプレイセンターの数は、2025年3月時点で17カ所と、まだ決して多いとはいえない。「プレイセンター」という存在が知られるとともに、その理念に共感する親たちの取り組みが広がることが期待されている。 親同士がつながれば、地域が大きな家族になる。その大きな家族に見守られながら、親も子どもも成長していく。みんなで学び合い、育ち合うプレイセンターの取り組みは、そんな地域コミュニティの形を切り拓いていくだろう。