「私たちが未来を変える」——生徒の自主活動が正式なクラブに。プラスチック廃材の回収からジェンダー平等への取り組みまで

2024.06.04update

校内で使用済みハブラシなどをコツコツ回収。環境負荷を減らすためにプラスチックをリサイクルへ。それはもう当たり前の日常になっている。「SDGsを学ぶ SDGsで学ぶ SDGsに学ぶ」をコンセプトに幅広い活動を行う、愛知県岡崎市の光ヶ丘女子高等学校。学校全体にSDGsの意識が根付き、それを魅力に感じて入学する生徒も増えているという。そして今、持続可能な社会に向けた活動に取り組む「ESDクラブ」には3年生9名、2年生20名、1年生15名の40名以上が所属する。なぜ、ここまで活動が広がったのか。

きっかけはハブラシの回収「SDGsが自分ごとに」

「SDGsより前からの活動も多く、にわかに始まったわけではないのです」

SDGs推進委員会委員長の尾之内童(おのうち わらべ)先生に経緯を伺うと、そう返ってきた。同校はミッション系の高校として、以前からグローバルな社会問題への関心が高く、ボランティアなどの社会貢献活動に積極的だった。つまり「素地」があったという。

そんななか、「SDGs」という文脈で生徒たちに活動が広がったのが、プラスチックを中心にした廃材の回収だ。最初は2018年、家庭用品メーカーのライオンとリサイクル企業のテラサイクルが行う「ハブラシ・リサイクルプログラム」に参加した。地球環境への影響から問題になっているプラスチックごみ。ハブラシはそのプラスチックが主原料となっている。みんなが日々使うものだけにごみになる量も膨大だが、まとめて資源として活用する場がなかった。そこでライオンが2015年より開始したのが使用済みハブラシを回収・リサイクルするこのプログラムで、アクションとしては、校内にリサイクルボックスを置き、使い終わったハブラシを入れるというシンプルなものだ。

「素地はあったものの、当時はSDGsという言葉も校内で知られていなかったので、浸透させるきっかけとしてこれはいいぞと。生徒会に提案しました。SDGsは自分ごとにするのが肝心。そのために、毎日使うハブラシは最適でした」(尾之内先生)

結果は、ねらい通り。生徒からは「ハブラシ1本から社会問題に貢献できることを実感している」という声もあがった。

SDGs推進を先導してきた尾之内童先生。担当教科は社会科と福祉科。

手軽さも手伝い、回収対象は生徒からの提案もあってハブラシ以外にも広がった。「つくる責任」として近年は多くのメーカーが取り組む回収・リサイクルのプログラムに参加する形で、現在、テープの巻芯、ペンなどの文具、使い捨てコンタクトレンズの空ケース、ゼリー飲料の空き容器なども回収している。また最近では、生徒個人で参加していた使い捨てカイロの回収が、「先生、こんなのもあるので校内でやっていいですか!」と学校内で自主的に広がった。回収されたカイロは、中身から水質浄化のはたらきのある「キューブ」がつくられ、水質改善に役立てられている。カイロの中身には、ヘドロを分解したり、農薬の混ざった水をきれいにする効果があると実験で分かり、リサイクルの対象となっているのだ。

またこれらのアイテムは、回収して終わりではない。たとえばハブラシ・リサイクルプログラムでは2kg(約200本)集まった段階で集荷を依頼するが、回収量に応じてポイントがもらえるという。このポイントは、リサイクル製品と交換したり、任意団体・機関に寄付したりすることができる。

「初年度にはリサイクル植木鉢をもらい、国際女性デーのシンボルであるミモザの苗木を植えました。校内に植え替えられたそのミモザの木は、立派に育ちSDGs活動のシンボルツリーになっています」(尾之内先生)

校内に設けた回収コーナー。ハブラシだけでなく、テープの巻芯、ペンやその他文具、使い捨てコンタクトレンズの空ケース、ゼリー飲料の空き容器などを常時回収している。
コンタクトの空ケースは、2022年10月に4,170個を送った。

有志のチームから、社会課題を学び行動する部活に“昇格”

ハブラシをはじめとする回収活動は生徒会主導から自主的に拡大。有志のチームへ引き継がれ、そのチームは2023年には「ESDクラブ」という正式な部活動になった。ESDは、Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)の略。回収活動を基盤としながら、社会の課題を学ぶワークショップやグループでのプロジェクト活動などを行っている。この部活動が、個々人の問題意識と行動を生み出すきっかけになっている。

有志チームの頃から参加し、ESDクラブの部長を務める国際教養科3年の山野彩音(やまの あやね)さんは、回収活動を通じて「日ごろの生活のなかで、もったいないことに目が行くようになった」と語る。使用済みの使い捨てカイロに着目したのも山野さん。水の浄化に役立つことを知り、2022年から2023年にかけてダンボール数箱分を回収し、水の浄化に取り組む企業に送っている。

「何かできないかと調べ、見つけたものを提案すると、周囲がすごい熱量で応えてくれることを知りました」(山野さん)

山野さんが活動に熱を入れる原点は、「高齢者・障がい者施設などへ赴く訪問美容師の母の姿を見ていて、人の生活を豊かにする福祉に目が向くようになった」ことだそう。

「全ての人の幸せを目指すSDGsに邁進できるのがこのクラブ。継続できる大きな理由は仲間がいることで、『こうできるといいね』と話し合う中で自分が将来やりたいことも見えてきました。大学では、高校2年生の時のカナダ留学で日本の遅れを実感したジェンダー教育を学びたいと考えています」(山野さん)

シンボルツリーのミモザの前に立つ、ESDクラブ部長の山野彩音さん。大きく成長した木は、毎年2月頃には鮮やかな黄色の花を咲かせる。

一人ひとりの問題意識がプロジェクトに。子ども食堂での廃材工作や、女性の仕事と子育てに関する調査

国際教養科2年生の鈴木蒔叶(すずき まかな)さんは、「初めはよくわからなかったSDGsですが、温暖化のことなどを知るうち関心が高まり、SDGsに力を入れているこの高校を志望。自分も何かアクションを起こしたくて、ESDクラブに入りました。自分たちが主体となって環境問題への可能性を広げている。そう感じられています」と言う。

鈴木さんがメンバー4人で始めたのは、子ども食堂でのペットボトルのキャップや空き缶のプルタブなどの廃材工作だ。ごみになるものにも使い道があることを知ってほしくて、廃材を使ったアート作品作りを企画、2023年から岡崎市内の子ども食堂で実施している。初回には小学生を中心に30名以上が参加。「色々な子と関われるように」と、班をくじで分けるなどの工夫もした。

「SDGsのことは小学校でも習っていますが、廃材工作は初めてだったようで、楽しみながら、頭を使って取り組んでくれました。何かを残せたのではないかと思います」(鈴木さん)

紙に廃材を貼り付ける工作。何を描くかも自由に考えてもらった。廃材はペットボトルのラベルやキャップ、空き缶のプルタブなどを用意。事前にお願いしたことで持参してくれた子もいた。

同じく2年生の中黒結良(なかぐろ ゆら)さんは、「社会科の学習で世界には未解決の、でも何とかしないといけない課題がたくさんあることを知って、自分にできることから社会を変えていきたいと思い、このクラブで活動しています」と話す。

中黒さんは、女性の仕事と子育てに関する調査を2人でスタート。少子化について調べていたところ、特に自分たちの将来に直接関わる、働きながら子どもをもてるかが気になり、まずは企業や実際に働いている人に取材をしようと考えた。取材先は、妊活や不妊治療をサポートする会社、女性の活躍や子育てを支援している薬品会社など。動向がまとまったら、校内で発表したいという。

「女性支援が進めば働きながら子育てしやすい社会になり、少子化も改善されるのでは。そのためにも課題を見つめたいと思います」(中黒さん)

それぞれのプロジェクト活動について話してくれた、中黒結良さん(左)と鈴木蒔叶さん(右)。

卒業で終わりじゃない! ウガンダの女の子のためにサステナブルな生理用品開発の事業化へ

高校生が社会の課題について真剣に考え、自主的に取り組むこれらの活動。「卒業したら終わり」ではなく、卒業後も続く活動がある。 

2019年、生徒の有志メンバー17名が、国連女性機関「UN Women」の「ジェンダー平等へ向けてのプロジェクト」に参加した。ウガンダの女子の就学率の低さに注目し、調べたところ、理由の一つが貧困のために生理用品を買えないことだと知った。そこで、みなで知恵を絞り、「竹の繊維由来のサステナブルな生理用ナプキン」を作ることを考案。竹はウガンダでも生産できること、これにより産業育成や雇用創出にもつながることに着眼したこのアイデアは、「SDGs探究AWARDS2019」で最優秀賞を受賞、国連大学でも提言する機会をもらった。

そして現在、メンバーは大学生になったが、それぞれが進学した大学で学びながら団体を立ち上げて商品開発を続けていて、卒業後は自分たちで会社を設立する予定だ。

プロジェクト名は「『竹の繊維由来のサステナブルな生理用ナプキン』によるウガンダの女子の就学率向上と社会的活躍の機会拡大」。国連大学でも提言の機会を得た。

伝統的に世界の課題と向き合ってきた光ヶ丘女子高校。国連が「SDGs」を掲げる前から続く活動も多いが、ここまで広がりを見せているのは、なにより生徒たちが本気だからだ。冒頭の尾之内先生はこう締めくくる。

「生徒たちを動かしているのは『自らアクションを起こし、未来を変えたい』という思い。本気で世界の未来を変えたいと思い、自発的に活動しています。それが活動の継続や広がりにつながっています。特に社会へアクセスする一歩は高校生にとってとてつもなく勇気のいることですが、その一歩を踏み出した生徒たちは、そこでも出会い、発見し、気づきを得て、さらに具体的なアクションを展開するなどして、自分たちがつくりたい未来へ近づいています」

※肩書きや学年等は取材時の2023年10月当時のものになります

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